ヒップホップの影響系譜
ヒップホップは、既存の音を素材として鳴らし直すところから始まった。1973年、DJ Kool Hercはジェームス・ブラウンに代表されるファンクのブレイク部分を引き伸ばし、そこにアフリカ・バンバータやグランドマスター・フラッシュが続いた。 素材はさらに古い。ジョージ・クリントンのPファンク、ラスト・ポエッツとギル・スコット・ヘロンの政治詩が、のちのビートと言葉の型を用意していた。 この系譜の技術面で最も多くの矢印を集めるのがRakimだ。エド・ラヴァーは「ラキムがいなければNasもジェイ-Zもビギーもいなかった」と言い切っている。 下のグラフは、その源流から黄金期、East/West Coast、そしてKanye・Kendrick・トラップまでを、本人発言と評論の言葉で配線したものだ。
ブレイクと政治詩 — 二つの素材
起点はターンテーブルにある。DJ Kool Hercはファンクのブレイク部分を引き伸ばすブレイクビーツ技法を生み、その革新はアフリカ・バンバータやグランドマスター・フラッシュへ直接受け継がれた。 バンバータの場合、素材はファンクだけではない。彼はクラフトワークへの愛から「Planet Rock」を作り、そのTrans-Europe Expressの旋律を借用したことを公言している。 もう一本の系統は言葉から来る。ギル・スコット・ヘロンはラスト・ポエッツの公演を見て進むべき方向を見出したと語っており、この政治色の濃いラップの精神は、のちにパブリック・エネミーへ流れ込むことになる。 当時は誰も「ジャンル」とは呼ばなかったが、ここでビートと言葉の二本の素材が出揃った。

Rakimという分岐点
黄金期に入ると、韻の運び方そのものが系譜の幹になる。矢印が最も集まるのがRakimだ。 その独自のラップ・スタイルは、Nas、Jay-Z、The Notorious B.I.G.、Eminemへ連なると評される。エミネムは自身に影響を与えたMCの一人としてRakimの名を挙げている。 言葉の設計図はほかにもある。ジェイ-Zは、ビートをまず聴いて音像に合わせて言葉を組み立てるビギーの手法を学んだと語っており、そのビギー自身はビッグ・ダディ・ケインの低いバリトンやクール・G・ラップを先駆けとして背負っていた。 1993年、Wu-Tang Clanの『Enter the Wu-Tang(36 Chambers)』のハードコアな青写真が、Nas、ビギー、ジェイ-Zら東海岸勢の道を開いたと見なされている。 技術の系譜は、こうして一人のMCから複数の東海岸へ分岐していく。


Pファンクとギャングスタ — 西海岸の土台
西海岸の重心は、音と主題の両方でたどれる。音を支えたのはジョージ・クリントンのPファンクだ。Dr. Dreは「The Chronicを本当に聴けばそれは終始パーラメント・ファンカデリックだ」と語り、スヌープの「Who Am I」は同じくクリントンの「Atomic Dog」をサンプリングしている。ドレーとスヌープは、そのPファンクをG-funkの土台へと作り変えた。 主題の系譜は証言で繋がる。アイス-Tはスクーリー・Dの「P.S.K.」に影響を受けてギャングスタ・ラップの主題に転じ、そのドレーはアイス-Tとスクーリー・Dの曲だけを回していた時期があったと語っている。 スクーリー・Dの作品はイージー-EとN.W.Aの「Boyz-n-the-Hood」にも大きく影響した。ここが西海岸ギャングスタの結節点だ。 のちにケンドリック・ラマーは、この西海岸の土台の上に立つ。彼は2パックを大きな霊感源に挙げ、その生々しさと引かない姿勢を吸収したと述べている。

南部とトラップ — 移った本流
2000年代以降、系譜の本流はアトランタやメンフィスへ移る。 いわゆる「ミーゴス・フロウ」の三連符は、スリー・シックス・マフィアのロード・インファマスが起源とされ、グッチ・メインやT.I.もスリー・シックス・マフィアを影響源に挙げている。 リル・ウェインは、ドレイク、ヤング・サグ、ケンドリック・ラマーを芸術的な後継者として持つ。とりわけヤング・サグほどウェインの音楽と直接的な関係を持つラップ・キャリアはないとされる。 本流が南へ移り、そこからまた全国へ広がっていく。力学ビューで矢印の集まるノードを追い、年表ビューに切り替えれば、この移動が縦の時間軸に伸びて見える。
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出典(本人公言・評論の一部)
- James Brown → DJ Kool Herc:出典(DJ Kool Hercはジェームス・ブラウンに代表されるファンクのブレイク部分を引き伸ばすブレイクビーツ技法を生み出した。)
- DJ Kool Herc → Afrika Bambaataa:出典(Hercの革新はアフリカ・バンバータやグランドマスター・フラッシュら初期のDJ・ラッパーに影響を与えた。)
- DJ Kool Herc → Grandmaster Flash:出典(Hercのブレイクビーツはヒップホップの基礎を築き、グランドマスター・フラッシュらに影響を与えた。)
- Kraftwerk → Afrika Bambaataa:出典(バンバータはクラフトワークへの愛から「Planet Rock」を作り、Trans-Europe Expressの旋律を借用した。)
- The Last Poets → Gil Scott-Heron:出典(ギル・スコット・ヘロンはラスト・ポエッツの公演を見て進むべき方向を見出した。)
- The Last Poets → Public Enemy:出典(ラスト・ポエッツの政治色の濃いラップはパブリック・エネミーらにその精神を残した。)
- Grandmaster Flash → Run-DMC:出典(グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴはRun-D.M.C.など多くのアクトに影響を与えた。)
- Kurtis Blow → Run-DMC:出典(Run-DMCのストーリーテリングはカーティス・ブロウやグランドマスター・フラッシュへの明確な負債がある。)
- Run-DMC → Beastie Boys:出典(ビースティ・ボーイズのロックとラップの融合はRun-DMCの「Rock Box」から着想を得た。)
- Boogie Down Productions → Public Enemy:出典(チャックDはBDPとエリックB&ラキムがパブリック・エネミーの方向性に影響した音を導入したと認めた。)
- Eric B. & Rakim → Public Enemy:出典(チャックDはエリックB&ラキムがパブリック・エネミーに影響を与えた音を導入したと述べた。)
- Schoolly D → Ice-T:出典(アイス-Tはスクーリー・Dの「P.S.K.」に影響を受けてギャングスタ・ラップの主題に転じた。)
- Schoolly D → N.W.A:出典(スクーリー・Dの作品はイージー-EとN.W.Aの「Boyz-n-the-Hood」に大きく影響した。)
- Ice-T → N.W.A:出典(ドクター・ドレーはアイス-Tがギャングスタ・ラップを実際に始めたと評価した。)
- Ice-T → Dr. Dre:出典(ドレーはアイス-Tとスクーリー・Dの「P.S.K.」「6 In The Morning」だけを回していたと語った。)
- Rakim → Nas:出典(エド・ラヴァーはラキムがいなければNasもジェイ-Zもビギーもいなかったと述べた。)
- Rakim → Jay-Z:出典(あの滑らかな韻の運びはラキムから来ており、彼なしにジェイ-Zはいないとエド・ラヴァーは語った。)
- Rakim → The Notorious B.I.G.:出典(ラキムの独自のラップ・スタイルはNas、ジェイ-Z、ノトーリアスB.I.G.、エミネムらに影響を与えた。)
- Rakim → Eminem:出典(エミネムはラキムを含む多くのMCを自身のラップ・スタイルに影響を与えた者として挙げている。)
- Big Daddy Kane → The Notorious B.I.G.:出典(ビッグ・ダディ・ケインの低いバリトンはビギーの力強くも軽やかなフロウの重要な先駆けだった。)
- Kool G Rap → The Notorious B.I.G.:出典(クール・G・ラップはノトーリアスB.I.G.など最も称賛されるラッパーへの大きな影響として挙げられている。)
- Kool G Rap → Eminem:出典(エミネムはクール・G・ラップを自身に影響を与えたMCの一人として挙げている。)
- Wu-Tang Clan → Nas:出典(36 Chambersのハードコアな青写真はNas、ノトーリアスB.I.G.、ジェイ-Zらへの道を開いた。)
- Wu-Tang Clan → The Notorious B.I.G.:出典(レイクウォンとゴーストフェイスの韻の手法はその後のNas、ジェイ-Z、ノトーリアスB.I.G.の作品に着想を与えた。)
- The Notorious B.I.G. → Jay-Z:出典(ジェイ-Zはビートをまず聴いて音像に合わせて言葉を組み立てるビギーの手法を学んだ。)
- George Clinton → Dr. Dre:出典(ドレーは「The Chronicを本当に聴けばそれは終始パーラメント・ファンカデリックだ」と語った。)
- George Clinton → Snoop Dogg:出典(スヌープの「Who Am I」はジョージ・クリントンの「Atomic Dog」をサンプリングしている。)
- George Clinton → OutKast:出典(アウトキャストは自らを「Pファンク世代の子供たち」と表現した。)
- Dr. Dre → Snoop Dogg:出典(ドレーとスヌープはPファンクを西海岸G-funkの土台へと作り変えた。)
- Wu-Tang Clan → Kanye West:出典(カニエはソウルのサンプルをピッチアップするウータンのRZAから手がかりを得た。)
- Tupac → Eminem:出典(エミネムは2パックとビギー双方の強みを組み合わせたいという思いが自身の作詞を形作ったと語った。)
- The Notorious B.I.G. → Eminem:出典(エミネムはビギーが物語を語り、自分はそれらを全部やりたかったと述べた。)
- Tupac → Kendrick Lamar:出典(ケンドリックは2パックを大きな霊感源として挙げ、生々しさと弱さ、引かない姿勢を吸収した。)
- Dr. Dre → Kendrick Lamar:出典(ケンドリックはドレーのアフターマスと契約し、ドレーは「Compton」を製作総指揮した。)
- Three 6 Mafia → Migos:出典(いわゆる「ミーゴス・フロウ」の三連符はスリー・シックス・マフィアのロード・インファマスが起源とされる。)
- Three 6 Mafia → Gucci Mane:出典(グッチ・メイン、T.I.、ヤング・ジージーはみなスリー・シックス・マフィアを影響源として挙げている。)
- Lil Wayne → Drake:出典(ドレイク、ヤング・サグ、ケンドリック・ラマーはリル・ウェインの芸術的な後継者だ。)
- Lil Wayne → Young Thug:出典(ヤング・サグほどウェインの音楽と直接的な関係を持つラップ・キャリアはないとされる。)